第3準備書面を読んで 4 イーク表参道カルテと元谷整形外科カルテの意味
1イーク表参道カルテについて
第3準備書面でのイーク表参道カルテについては判決文と同様の主張がなされている。
準備書面を引用する
『イーク表参道カルテ(乙7)の正確性に疑問があることは原審も認定しているとおりである(原審判決26頁)。すなわち、性的行為時にコンドームが使用されていない点については当事者間に争いがないにもかかわらず、イーク表参道のカルテにはコンドームが破れたなどと客観的事実に反する記載がある点で、記載内容の正確性に疑義があるものであり、性的行為が行われた時間については、当該カルテによって認定すべきではなく、被控訴人の供述によるべきである。』
要点はカルテには客観的事実と異なる記載があるから、記載内容の正確性に疑いがあるということである。
では、元谷整形外科のカルテを同様の論理で考えた場合どのような結論になるだろうか。
2.元谷整形外科カルテに原審の論理をあてはめてみると・・・
元谷整形外科のカルテそのものは見ることができないが、著書や、裁判資料などからカルテには「膝の怪我の受傷日は3月31日の取材時」と記載されているようである。
準備書面にも同様と思われる記載があるので引用する
『しかしながら、被控訴人が元谷整形外科で受診した時は、本件不法行為である性的被害に遭ったことをまだ誰にも打ち明けられなかった時であり、咄嗟に思いつく直近の理由を3月31日の取材時だとして述べ、その場を取り繕った』
とすれば「取り繕った」という表現から、受傷日が3月31日の取材時というのは事実と異なるということになる。
以上の事実をイーク表参道での原審の論理に当てはめると以下のようになる。
元谷整形外科のカルテは3月31日の取材時に受傷したなどと客観的事実に反する記載がある点で、記載内容の正確性に疑義があるものと考えられる。
以上のように考えると元谷整形外科のカルテの記載内容の正確性に疑義がある以上、このカルテの記載を前提にした主張はできないはずである。
ところが、準備書面によると以下のような主張をしているので引用する。
『6日に受診し「右膝内障、右膝挫傷」診断を受けたこと(甲13)
(一部略)
6日に診断を受けた一連の状況から、少なくとも右膝の痛みは本件不法行為の際に負った疑いがあるという摘示事実には、真実性・相当性が認められる』
同じカルテであるにもかかわらず、一方では客観的事実と異なる記載をカルテ内容の正確性に疑義があるとカルテの証拠力を否定しながら、その論理を適用せず、他方で客観的事実と異なる記載があるにもかかわらず、カルテ内容を証拠として主張することは矛盾である。
このような主張に対しては、
イーク表参道の該当事実は当事者間に争いがなかったが、元谷整形外科の該当事実では明らかでないからイークでの論理を適用できないとの反論が考えられる。
しかし、争いがあるとすることは不可能である。なぜなら、3月31日というのが、客観的事実かどうか山口さん側はわかるはずもないからである。また、この事実を争う意味もない。山口さん側の主張は4月4日に膝を怪我させるような行為は一切行っていないことだからである。
よって、本問題で当事者間で争いとなる事実とは言えない以上この反論はありえない。
3.矛盾した主張になる理由
伊藤さん側が矛盾した主張になってしまうのはどのような理由に基づくのか、それは、原審の論理が誤っているからである。
つまり、カルテに客観的事実と異なる記載があったからといって、論理的にカルテの記載内容に疑義が生じるわけではないのである。
カルテに客観的事実と異なる記載があった場合、それが①医師が勘違いあるいは虚偽記載する場合②患者が勘違いあるいは嘘に基づいて申告した場合との2つが考えられる。
そしてこれらは個別に、事実と異なる理由に合理性(合理的理由)があるか検討した上で、さらに上記客観的事実と異なる記載が、カルテの他の内容に影響を及ぼすかについて別途検討されなければならない。
4.元谷整形外科カルテの伊藤さん側の主張を逆にイーク表参道カルテに適用するとどうなるか。
元谷整形外科カルテに関して、伊藤弁護団が主張した内容を引用する
『しかしながら、被控訴人が元谷整形外科で受診した時は、本件不法行為である性的被害に遭ったことをまだ誰にも打ち明けられなかった時であり、咄嗟に思いつく直近の理由を3月31日の取材時だとして述べ、その場を取り繕ったのであり、合理的理由がある(原告17、18頁)』
伊藤さん側の主張によれば、本当は4月4日に受傷した疑いがあったが、性的被害を打ち明けることができなかったから嘘をついたということである。そして、その嘘は合理的理由があると主張している。
この論理をイーク表参道にあてはめてみるとどうなるか
しかしながら、被控訴人がイーク表参道で受診した時は、本件不法行為である性的被害に遭ったことをまだ誰にも打ち明けられなかった時であり、咄嗟に思いつく理由をコンドームが破れたとして述べ、その場を取り繕ったのであり、合理的理由がある。
読んだ感想はどうだろうか?極めて自然ではないだろうか。
とは言え、感覚的に自然であるだけでは不十分である。
「コンドーム破れた」という嘘がはたして合理的理由と言えるかが問題である。
もっとも伊藤さん側の控訴答弁書等で既に合理的理由があると証明されている。
というのは、控訴答弁書において、再三「避妊なし性行為はありえない」との主張を繰り返している。このような主張は、産婦人科受診で「避妊をしなかった」と言いにくいことをまさに表したものである。現に、産婦人科で本当の事を言えなかったとか、避妊無しで性行為をしたことを医師に責められたとの話がネット上やyoutubeでみられる。
5.第3準備書面により明らかになった事
①カルテに客観的事実と異なる記載があったとしても、それのみで論理的にカルテの記載内容に疑義が生じるわけではないこと。(イーク表参道カルテについて原審の事実認定に誤りがあること)
②第3準備書面での、元谷整形外科カルテを証拠として利用する論理をイーク表参道カルテに適用すると、自然な結果となり、しかも客観的記載と異なるコンドーム破れたという主張に合理的な理由があることも控訴答弁書等で明らかなこと。