伊藤詩織さんと検事5 検事起訴事例が山口さんの非犯罪性を証明する

1.第2回取り調べ

 前節で確認したとおり、1回目取り調べでは、目覚めてからの状況が準強姦にあたらない理由を検事が説明していた。

 2回目検事取り調べで、検事が自ら準強姦で起訴したとされる実例を挙げ、不起訴理由を説明していた。

その内容は以下の通りである。

①被害者は2名。うち1人は看護師(Aとする)もう1人をBとする。

②性行為時は全く気がつかなかったAが被害後すぐ、薬物使用に気がつき、尿検査をして睡眠薬が検出される。

睡眠薬の検出のみであっても証拠(証言)がさらに必要※。

④Bは途中で被害に気がつく。

⑤まあいいかと思って寝たふりをする。

⑥Bは意識があったので、状況を、そしてどうなっていたかを、証言できた。

⑦両者の被害が起訴される。

 

※第1回取り調べで薬物検出の場合、基本的には有罪になると検事が話していた。

検事の起訴事例が睡眠薬検出だけだと弱い部分があったと語ったのは、特段の理由があったと推測される。別事例であるが、睡眠薬が検出されたにもかかわらず、合意の性行為が認定され準強姦罪が成立せず無罪となった事例(平成15年2月14日 前橋地裁高崎支部)があることから、検事の起訴事例において合意の可能性などがあった事例と推測される。

 

  

 以上の事例を伊藤さんの事例と比較、あてはめてみるとどのようになるのだろうか。

 

3.伊藤さんの事例との比較検討

①、②寝ている間(意識がない)に被害にあったと主張、薬物使用の疑いがある(起訴事例と類似)

気付くのが遅れ、尿検査はできず(起訴事例と異なる)。 

③酩酊状態であった(起訴事例と類似)、さらに証拠が必要(同様)

④、⑤伊藤さんは被害途中で目が覚める。(起訴事例と同様)

⑥目が覚めた後の状況を話すことができた(起訴事例と同様)※

※捜査員や、被害届等で著書と同じ内容を主張したと、本人尋問で証言。

ところが、検事の前では全く異なる証言をしていた。

⑦不起訴

 

4.検事の起訴事例は伊藤さんの著書や裁判での内容であれば起訴となる

 (1)検事取り調べで、伊藤さんが不起訴になった理由として指摘していたのは、ホテル入室時間から退出時間までが長かった事や、被疑者側(山口さん)から同意の主張があった場合に「前後の記憶がない」であった。

 ところが、伊藤さんの主張する事実はまさに「途中から(後から)」意識が回復(目覚めた)し、記憶がはっきりあった事例である。検事事例④〜⑥がそのままあてはまっている。

 

 (2)検事は警察を含む全ての捜査資料を精査して、起訴不起訴の判断をしている。

起訴便宜主義の下で、検事の権限は絶大であり、その大きさゆえ責任も重大である。

 検察官が、伊藤さんの著書、裁判で主張している事実が書かれた警察調書を見ていた場合に起訴ができない理由として、上記のような起訴事例を例示しただろうか。

 起訴事例を伊藤さんのBBや裁判での主張にあてはめると、まさに「起訴相当」となってしまい、矛盾してしまうのではないか。

そして、もう一つ重要なのは、上記事例の説明に対し、伊藤さんは「途中から意識があり、暴行行為、殺されるかと思った」などの反論を一切していない点である。そのような行為がなかったからこそ反論できなかったのではないか。

 つまり、捜査員に対して、伊藤さんが意識が回復した(目覚めた)後について話した内容、調書の中には(準)強姦の故意を明らかにするものでも、暴行行為と認定されるような事実も話していないと考えざるを得ない。

 検事自らの準強姦起訴事例の例示こそが、伊藤さんが意識回復(目覚めた)後、犯罪行為を認定しうる行為を検事の面前でばかりではなく、警察の調書の中にも記載されていなかったことの証明となるのではないか。

 なお、調書に書かれていないとしても、警察捜査員には主張したとの反論がありうるが、調書化する際に調書を読み聞かせをして、その内容に相違ないかについて署名している以上その反論は成り立たないものと解する。