控訴審判決論理破綻2

1 控訴審判決を要約する

 控訴審判決は全体で200ページ弱に及ぶとても長いものである。

とはいうものの最重要ポイントは比較的シンプルなものだ。

「伊藤さんと山口さんは親密な関係ではない。よって同意性交は考えられられない。

虚偽告訴の動機もなく、被害直後に医師、友人、警察署、などにほぼ一貫して同じ内容を話しているから事実(真実を述べた)だと推認される。」

 「親密性」や「虚偽告訴」の理由が不適切なことは、軽すぎる控訴審判決で既に解説した。

 そして、特徴的なのは、裁判の事実認定において、信用性の根拠に友人の陳述書との一致性が度々登場することである。

 

2 イーク表参道カルテの扱い

 控訴審判決で最も注目されたのが、「イーク表参道カルテ」の扱いだろう。

 控訴審判決は、カルテの信用性を認め、伊藤さんが午前2時頃性行為があったことを医師に申告し、その申告に基づいて医師がそのまま記載した、と認定した。

(伊藤さんは著書、裁判、尋問等では一貫して「明け方」としか答えていない。医師は忙しく誤記をしたのでは?とまで主張している。判決によって確信犯的な嘘つきだと実質的に認定されたことになる。)

 にもかかわらず、判決では実際の性行為が行われた時刻を午前5時頃とした。

理由は要約したとおり親密性がないことによる合意性交の否定、5時頃の被害申告が「ほぼ一貫していることが認められる」、特に友人にほぼ同様の話をしたからとしている。

 そして、なぜわざわざ真実を話さなかった(嘘をついた)のかについては「理由は必ずしも明らかではないものの」と言いつつ、「混乱」を理由とした。

 

ところが、高裁が「混乱」を理由とする事で、決定的な論理破綻をきたすことが判明した。

 

3 混乱状況の中での被害申告は嘘

 高裁は、混乱状況を示す根拠として、被害申告の無い4月6日のメールと、9日の警察の被害申告が挙げている。

 混乱状況があったから、相いれない行動をとった、と考えたようだ。

相いれない行動とは、被害申告をしたりしなかったりした行動を指す。そして相いれない行動≒事実と異なる事(嘘)を申告してしまう余地がある、と言いたいのであろう。(混乱がなぜ嘘をつきになるのかは理由不明という理由付けも意味不明あるが。)

 

確かに、4月6日の整形外科受診においても同じ枠組み(本当は性被害原因なのに、仕事が原因と嘘をついた)で理解できるようにも思える。

 では、いつまで相いれない行動をとっていたのであろうか。

「あの時言ってた君は合格だよって、いうのはどういう意味なんでしょうか?」というメールを4月14日に送信している。

つまり4月14日時点では合格の意味を問うような被害申告を訴えていない(責任を問わない)行動をしている。言い換えると、まだ相いれない行動をとっていたといえよう。

 検事取り調べ(秘密録音)でもこのメールが問題となった。質問に対して、「私が止まっていてあまりクリアな思考ではなかった」と証言しており、14日も混乱していたことが伺われる。

 以上からすると4月4日から少なくとも14日まで混乱により相いれない行動、イーク表参道にて真実と異なる話(嘘をつく)をしたとすると、4月4日から4月14日までの証言、7日、8日の友人へも真実と異なる話(嘘をつく)をしたと考えるのが論理的なのではないだろうか。

 控訴審の理論構成によって、友人に被害申告をした時点では混乱しており、伊藤さん自身が真実を話していない、つまり伊藤さんの虚偽主張の可能性によって、論理的に友人陳述書の証拠価値が減殺した。

 よって、性行為時間につき、カルテ記載時を否定し午前5時性行為とした理由付けからすると、友人陳述書を証拠採用したことは、矛盾した判断と解せざるを得ない。