控訴審判決論理破綻1

1 午前2時の性行為の否定に午前5時頃のアルコール血中濃度定量を用いる

 山口さんの主張「午前2時頃、合意による性行為」が否定された根拠の1つに、午前5時時点においてもアルコール性健忘の可能性があったことが指摘されている。

 そもそも午前2時頃の主張について、なぜ午前2時頃のアルコール血中濃度定量に基づかなったのかという疑問点がある。

 そして今回重要なのは、5時頃のアルコール血中濃度定量を挙げ、5時頃のアルコール性健忘の可能性を指摘している点である。

 アルコール血中濃度定量に基づくアルコール性健忘の可能性が結果的に重大な論理破綻を招いてしまうことになる。

 

2 控訴審判決の論理破綻

 (1)控訴審判決午前5時頃の性暴力についての事実認定

「被控訴人(伊藤:筆者注)は、覚醒以前には意識がなかったものと認められるから、控訴人(山口:筆者注)は、被控訴人が意識を失っている中、性行為に及んだと認めざるを得ない。

 (2)控訴審の論理破綻

 控訴審が午前5時頃についてアルコール血中濃度推定値、及びアルコール酩酊度を使って指摘しているのは、「アルコール性健忘」の可能性のみである。

 控訴審判決で書かれているアルコール性健忘の内容は次の通りである。

「このような状態(周辺環境に適応し、短期的応答可能、本人記憶ほとんどなし:筆者注)では記憶障害以外の認知機能に異常は少なく、日常的な自動行動は行えるが、正常な論理的思考や合理的判断はできない。」

 とすると、控訴審の判断基準に従うと、午前5時にアルコール性健忘の可能性があるということは、記憶障害以外の認知機能に異常は少ないということになる。

 つまり「意識がない」というそもそも認知機能を喪失している状況を想定することはできないのではないか。

 午前5時頃アルコール性健忘の可能性があることは、その状態よりはるかに酩酊した状態「意識がない」ことを否定する根拠となってしまうという論理破綻をしてしまった。

 控訴審裁判官こそ正常な論理的思考ができていないということになる。裁判官はアルコール性健忘なのだろうか?

 

 3 論理破綻の原因

 控訴審判決が上記のような論理破綻をしてしまったのは、「寿司店2回目トイレから午前5時頃もの凄い痛みで起きるまでの記憶がなかった」ことを認定しなければならなかったことに他ならない。午前2時の性行為の否定にわざわざ5時の話をもってきている背景がここにある。5時「も」記憶がなかったことにしなければ、伊藤さんの供述の信用性が崩れてしまうからである。

 さらに、その事実認定にこだわるのは、山口さんの主張通り、午前2時の性行為があったことを伊藤さんが記憶・認識していた場合、両者が性行為後3時間以上一緒にいたことになり、性行為が不同意であったことと整合性がとれなくなるからである。加えて、控訴審の理論構成によると、アルコール性健忘が否定された場合、午前2時頃に正常な論理的思考や合理的判断ができることになってしまうからである。

 山口伊藤問題をよく知る方々は以上の話から、午前2時の性行為を伊藤さんが記憶・認識していた決定的証拠、イーク表参道のカルテを思い出すだろう。

 次章では、控訴審でのカルテの扱いが更なる論理破綻を引き起こしてしまったことについて説明する。