伊藤詩織さんの酩酊度はどのように見えたのか 1

1.伊藤詩織さんの酩酊度 ホテル入室時

 飲酒量から酩酊度を推測することは難しいことがわかった。

 そこで、どのような状態であったのか画像や証言などの証拠、裁判所の認定した事実とともに考察してみた。

 伊藤さんは午後11時20分前後にタクシーにてホテルに到着し、玄関からロビーまでの動画が防犯カメラに記録されている。

一部の画像がネットで流出していることをご存じの方もいらっしゃるだろう。

 そこで、画像、および準備書面における動画の描写から推測してみる。介助されながらではあるが、一応歩行することが可能なように見えること。藤宮教授も「千鳥足」であったと書いていること。また、伊藤さんはホテル入室時点において記憶はなかったと主張していること。

 以上から先ほどの判定表に基づいて考えると酩酊期であったと推測される。裁判でも「強度酩酊」とほぼ同様の認定がなされている。

 ホテル入室時についての酩酊度についてはそれほど誤差がないように思える。

体調、体質(個人差)などからも原告、被告どちらの飲酒量だったとしてもありうるものと考えられる。

 

2.伊藤詩織さんの午前2時の酩酊度について 

 

(1)午前2時前後の酩酊度については被告側の主張と裁判で認定された事実とが異なる。

 裁判においては「寿司店で強度酩酊になり居室で嘔吐し、一人で脱衣もままならない状態であったという原告が、約2時間という短時間で、酔った様子が見られないまでに回復したという点についても疑念を抱かざるを得ない。」と認定されている。

 午後7時ないし8時に飲酒を開始し、午後11時前後に飲酒終了、その時点では強度酩酊であった場合、その約3時間後(裁判では2時間後となっているが、ホテル到着から2時間40分後以降が正確)にどの程度酩酊していたのか。

 ホテル到着前後が最も酔いが進んでいたという前提は争いがないと思われる。

 

(2)問題はどの程度回復したのか、である。

 この問題はアルコール量と酩酊度と類似の問題がある。回復に関しても個人差が大きいと考えられる。実際飲酒することの多い人達にとっては異論のないところだろう。

この点、藤宮教授の意見書にも代謝量は3パターンが提示されている。

しかしながら伊藤さんの酒の強さによる仮定かどうかは不明である。

 

3.酒の強い人と弱い人でアルコール代謝にどのような違いがあるのか

(1)適正飲酒に関するものであるが、興味深い論文がある。

適量飲酒における諸飲酒条件がアルコール代謝動態に及ぼす影響

日本・アルコール薬物医学会雑誌 第46巻 第3号

http://www.arukenkyo.or.jp/book/all/pdf/a05/5-595.pdf

   

 この論文の重要なところは遺伝子検査によってALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)の活性型と低活性型それぞれについて検査していることである。遺伝的に酒が強い人、弱い人と分類して検査した貴重なものである。

 特に今回問題になっている部分について下記に示す。


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 アルコール遺伝子検査によりアルコールに体質的に強い人と弱い人それぞれに適正な飲酒をしてもらって(ビール、焼酎、空腹、食事しながら)時間経過ごとのエタノール血中濃度を測定したものである。

左が活性型(強い人)右が低活性型(弱い人)である。

 

(2)①空腹時よりも食事しながらのほうが、エタノール血中濃度のピークが低くなることは両者ともにはっきり表れている。実際に多くの人が体感されていることで、納得できる。

②アルコールの影響が完全になくなるのは両者ともにほぼ同じ時間であることが推測される。このことは飲酒運転等で言われていることが酒の強弱に関係なく一律なので納得することができる。

 次にピーク時のエタノール血中濃度については酒の弱い人のほうが高いが、大きな違いはないと言える。

実際の酩酊度から考えると不思議とも考えられるが、いままで考察してきたとおり、エタノール血中濃度と酩酊度の関連性が薄いと解すればこのことも理解できる。

②強い人と弱い人に違いがでるのは飲酒後30分以降からと推測される。

強い人の場合30分後に比較してエタノール血中濃度の減少が明らかであるが、

弱い人の場合は飲める人と比較して減少量が少なく、特に空腹時のビールの場合は30分後よりむしろ1時間後の方がエタノール血中濃度が高くなっていることが認められる。

③特に注目すべきは、飲酒後2時間後のエタノール血中濃度の部分である。

食べながら焼酎を飲んだケースの飲酒後2時間経過したエタノール血中濃度は強い人は0.1mg弱い人は0.2mg比較すると2倍もの違いがある。

 体質によって飲酒後0.5~3時間経過後の両者の回復力に相当な違いがあるのではないかと推測される。

 

この論文は実際に酒を飲む機会の多い人であれば納得できる内容なのではないだろうか。

 

(3)では、伊藤さんの酩酊度についてはどのように考えればいいのか。

伊藤さんの友人によれば「伊藤さんは誰よりも酒が強い」と言っており、遺伝的に酒が強い方であると推測される。

 とすれば、回復力も相当早いのではないかと推測することができる。

実際飲酒をよくする人は酔いからの回復が人によって大きく異なることも実感しているだろう。

 しかし、飲酒はその日の体調により変化するものであることは実体験としてほとんどの人が経験済みであろう。また、この論文のサンプル数が少ないことや、エタノール血中濃度と酩酊度に関連性が明らかでないと考えられる以上慎重に考察すべきと考える。

 そこで、本考察では伊藤さんが午前2時どのような状態だったかアルコール量と回復度に関して、回復が遅かった場合、回復が早かった場合、そして両者の証言や証拠等も合わせて考え2つのパターンを仮定してみた。

 次にそれぞれについて考察する。