第3準備書面を読んで 2 山口さんはデートレイプドラッグを混入していない
1.伊藤山口裁判におけるデートレイプドラッグ関連の主張について
伊藤山口裁判において、伊藤さん側がデートレイプドラッグを根拠にして、不法行為に基づく損害賠償を請求していない。
また、山口さん側は著書等で「デートレイプドラッグを混入させた」事実を摘示していることを根拠として名誉棄損(不法行為)に基づく損害賠償を請求している。
第3準備書面の検討に入る前にTwitter上で展開されている寿司店でのデートレイプドラッグ関連の珍説について検討し、第3準備書面との関連を後に検討する。
2.Twitter上での珍説
寿司店におけるデートレイプドラッグに関連する議論の中であまりに的外れで、山口さん、寿司店に迷惑な珍説がいくつかあるので、まずそのことについて検討する。
①山口さんが握りを頼んでいないのは怪しい
この主張は著書等の寿司店での様子をきちんと読んでいない、そして寿司店に対する無知からくる幼稚な説である。
寿司店で「おまかせ」で頼んだ場合、日本酒を飲んでいるのであれば、酒の肴例えば塩辛、酒盗他にも様々な肴があり、日本酒に合わせて出される。また、その日の仕入れによって刺身、焼き物、煮物など最善の形で様々な魚が提供される。たいてい握りは一通りの肴が出された後で供される。
当日は午後9時頃に入店し、10時頃伊藤さんがトイレで倒れたという状況であった。
とすれば、握りに入る前に伊藤さんが気分が悪くなったと考えるのが極自然であり、握りを頼んでいない事は全く普通の事である。
実際には伊藤さんの状況もあり握りの時間がなくなったため、店を出る直前あたりに巻物を注文したと考えるのが自然であろう。
第3準備書面との関係で指摘しておきたいことは、寿司店では客の飲み方、好み、食べる速さなど様々な状況に応じて臨機応変に対応することである。
寿司職人は客の飲食の状況をよく観察しており、カウンターであれば食の進み具合など「手元」をよく観察しているのである。
②カウンターであっても、デートレイプドラッグの混入は物理的に可能である。
上記珍説を主張している人達も流石に「たやすく」混入できるとは思っていないらしく、そのため、あらかじめ睡眠薬を粉々にして、水溶液にする、それを事前に準備したスポイト状のものに入れておくなどの空想に妄想を重ねた論を主張している。
確かに妄想を重ねれば、物理的に混入は不可能ではないかもしれない。
しかし、このような説に対する反論は一言「そのような手間暇をかけるくらいなら、そもそも寿司店を選ばない」で十分である。このように検討するに値しない珍説ではあるが、詳細の検討はないものの、同様な主張が第3準備書面にみつかった。
3.第3準備書面でのカウンター問題
準備書面では両者で以下のような主張反論がある。
『(控訴人:山口側)控訴人と被控訴人の会食した串焼き店及び寿司店ではカウンターテーブルに2人並んで会食しており、第三者に気付かれずに秘かにデートレイプドラッグを混入させるのは至難の業である』
『(被控訴人:伊藤側)また、複数の客がいる店内において、カウンター席だからといって、店の従業員や他の客に気付かれずに、薬物を混入させることが不可能とまでは言えず、控訴人による指摘は当たらない。』
まず、「不可能とまでは言えない」が「混入させた」とは絶対に言えない事は確認しておきたい。(なお、準備書面においてドラッグ使用を断言する記述があり、次節で検討する)
そして、珍説もそうだったが、カウンターという物理的な側面しか考えておらず、人間の「心理面」からの検討をしていない。そもそも反論にすらなっていない。
つまり、心理的側面からも、寿司店カウンターで山口さんがドラッグを混入させることはありえないのである。
4.「視線」と犯罪抑止
通常犯罪は人から見やすいところより、見えにくいところで発生しやすいことは証明するまでもなく自明であろう。
さらに注目すべきなのは「人に見られている」と認識すること、すなわち視線を感じるだけで犯罪が抑止される可能性が高いことである。
ある実験について紹介する。
メリッサ・ベイトソンの「誠実の箱」実験
喜一大将の遠藤さん
目利きの確かな遠藤さんの視線
この実験で興味深いのは「写真を貼っただけ」という点にある。
人がいるという監視効果ではないことから、いかに人が「人の目、視線」に敏感なのかがわかる。
先程説明した、いわば寿司店での作法、重要な点「手元をよく観察している」ことを合わせて考えれば、寿司店カウンターがいかに薬物混入に不向きか明らかだろう。
5.その他沢山あるドラッグ混入否定根拠
①とよかつ聴取書より
串焼き店で既にそれなりに酔っていた
(相当飲酒量+薬物併用薬が効きすぎる危険性より混入しないのではないか)
②喜一聴取書より
1)伊藤さんがトイレ入室後約30分間山口さんが気が付かなかった(薬物混入していれば伊藤さんの状況を注視しているはず)
2)山口さんが伊藤さんに「先に帰るよ」と言っていた
③パソコン等から睡眠薬購入履歴みつからず
④複数の客がおり、仮に体調不良が起きた時、それらの人が証人になってしまう。
(一般の飲食店では客と連絡をとることは困難だが、寿司店の場合常連も多く客と連絡をとりやすい)
⑤明るい店内、寿司店という形態、山口さんは常連客、以上から連れが体調不良になった時、救急車など呼ばれやすい(実際中々救急車を呼ぶのはハードルが高い)
以上から、山口さんはデートレイプドラッグを混入していないし、することもできない。
私見では、これだけの証拠があり、かつ逆にデートレイプドラッグ混入可能性の根拠も極めて薄いものしかない以上、山口さんがデートレイプドラッグを混入させた可能性があるとの主張すら、よほどの合理的理由が示されない限り、許されないものと考えている。
ところが、第3準備書面で確定的に混入させたと記載している箇所があり大いに問題である。
次節で検討していきたい。