伊藤詩織さんと検事1  午前5時に目覚める前に記憶が一切なかったのは本当か。

 1 はじめに

 伊藤さんと山口さんの性行為には同意があったかなかったか。控訴審判決の理由付けあるいは理論構成では、合意があったとは必ずしも言えないことを述べてきた。

 人間の価値観、倫理観は人それぞれである。「本当のことを言っているかどうか」を慎重に丁寧に検討すべきであろう。

 これから、検事秘密録音で検事の前で話した伊藤さんの証言、検事が明らかにした警察での証言、調書を踏まえて、伊藤さんの主張が本当なのか、検証していく。

 そして、読者の皆さんに常に意識して欲しいのは、彼女は「捜査員との会話や、捜査の過程、証拠集めのための取材を詳細に記録していた。」という事実である(AERA 2019年2月4日号)。

 詳細に記録をとり、しかも秘密録音までしていた、その上で著書や民事裁判、尋問等で何を主張したか、驚くべき証言連発である。

 検証をスタートする。

 

 2 意識が回復するまで(目覚める前)まで記憶が一切ないのは本当か

 

(1)著書や、裁判では2度目のトイレに入ってから、下腹部の痛みで目覚めるまでの記憶が一切ないと主張している。

(2)また、性被害者に見られる解離による記憶の消滅や変遷等がないことも尋問で明らかになった。

 本人尋問でのやり取りの一部抜粋

①弁護士 このような忘れ難い記憶というのはトラウマのようにして残りますから、しばらく忘れていたのに後から思い出すということも絶対にないですね。

伊藤 はい。

②弁護士 ということは、くどいようですけど、後から忘れていたけれども思い出したというようなことはないということでいいですね。

伊藤 ありません。

③弁護士 しかも、「Black Box」にかかれているような性的暴行被害の場面での具体的な事実についても警察に申告したということでしたね。

伊藤 はい。

弁護士 あなたの主張を前提とすると、高輪署に刑事告訴した4月11日、あるいは、告訴が受理されたと思われる4月30日からはあなたが、「Black Box」を出版した平成29年10月までの2年間以上もの間、ずっと被害状況、つまり、シェラトンホテルの中で何があったかということについて「Black Box」に書かれているような具体的な事実について記憶に残っていたということになりますね。

伊藤 はい。

 

では検事の前でどのように証言していたのだろうか。

 

(3)第1回検事取り調べで、伊藤さんが事件概要を話した時にも、記憶が全く無いと証言

検事 1回目のトイレから20~30分ぐらいだとするでしょう。で、すると、そっから大体、まあ、仮に40分ぐらいとすると、これでもう1時間ちょっと超えてるんだけど、1時間ちょっと越えたあたりで記憶がなくなってるって形なのかしら。

伊藤 そうですね。

検事 うん。これ、もう、本当にその後、全くない状態?

伊藤 全くなくて。

 

 なお、その後の質問で、伊藤さんは目覚める前に重みや下半身の痛みを「残像」として残っていると、「全くない」とは言えないとも思える、微妙な証言をしている。

 

それでは警察の前でどのような話をしていたのだろうか。

 

(4)第2回検事取り調べで検事が、2015年7月3日警察での調書にて以下の事実を主張していたことを明らかにした。

検事 伊藤さんのほうがね、朝方よりも前の記憶のないときにも、あのー、山口がね、私の体に乗って強姦している状況と、山口がね、私の乳首をかんでいる状況がよみがえってきたっていうお話ししてるでしょう。

 

 調書によると、目覚める前の新たな記憶がよみがえってきたことになる。

本人尋問と調書、そして著書との矛盾はどのように考えればよいのだろうか。

 

(なお、著書や裁判との整合性から考えると、乳首を噛んでいる状況、出血する程度の損傷があるのに痛みで覚醒しないのはおかしい。よってこの警察調書での伊藤さんの供述も極めて疑わしい。)

 伊藤さんが自ら提出した証拠で自らの供述の信用性を低下させることになったのである。